JICEの国際交流とは

参加者の声

【インタビュー】JENESYS2017/SAARC1陣に参加したバングラデシュのサイド・アブドゥル・ハリムさんにメールでインタビューを行いました。

JENESYS
国内プログラム

サイド・アブドゥル・ハリムさんは2017年11月にJENESYS2017の一環として「経済協力」をテーマとするプログラムに参加しました。ハリムさんは、現在国際協力機構(JICA)が支援する都市建築安全プロジェクトでアシスタント建築家として働いています。 

―JENESYS2017にへ参加した理由は何ですか?

JENESYSに応募した当時、私はダッカ大学日本語学部の修士課程にいました。日本に関する学術的知識を習得して、現実に結び付けたいと考えていました。私は勤労学生でしたので、自己負担での日本訪問はほぼ不可能なことでした。JENESYSが、私に完璧な機会を与えてくれたのです。旅費と滞在費を負担してくれただけでなく、コーディネーターが終始同行してくれ、さらに、日本の家庭にホームステイもさせてくれました。ただの外国人旅行者だったら、日本の普通の家庭に滞在することは難しいですが、このプログラムのおかげで、日本の社会、人々、技術、革新、歴史、建築など様々なことを体験することができました。以上が、私がこのJENESYSに参加した理由です。

JENESYS2017で一番印象に残っていることは何ですか?JICEの企画したプログラムで良かった点を具体的に教えてください。また、改善点があれば具体的に教えてください。 

JENESYSで一番印象深かったことは、ホームステイです。これは本当に“ひと箱のチョコレート”のような体験です。何が起こるかわからないのです。私たちはいくつかの小さいグループに分かれて、それぞれ別の日本人家庭を訪問したので、人によって、経験したことが違ってきます。私の経験を詳しくお話します。

私は、同じバングラデシュからの2人とともに、河門前家の“養子”になりました。”adopted(養子になる)”という言葉を使ったのは、河門前さんが私たちを、二人の自分の息子同様に実の息子として扱ってくれたからです。
お母さんは本当に優しく思いやりのある人でした。いつも笑顔で、よく世話をしてくれました。私たちは十分大人で、自分で自分のことをできるのにもかかわらず、お母さんは、私たちが3泊した間、毎晩、私たちのベッドを整え、部屋が適温か確かめてくれました。私たちが熱帯の国から来ていて、北日本の寒い気候には慣れていないだろうと、いつも気にかけてくれました。食事の時は、文字通り、テーブルを料理の皿でいっぱいにしてくれました。私たちがイスラム教徒なので、お母さんは、高価なのにもかかわらず、わざわざハラルミートを用意してくれました。
地元のスーパーに連れて行ってくれたとき、お母さんが、食べたいと思うものを選びなさいと言ってくれました。私は柿を選び、お母さんが払ってくれました。そのあと、お母さんの友人の家に行ったとき、そこには私たちのために、たくさん柿が準備してありました。お母さんはそのことを知っていたにも関わらず、私がスーパーで柿を選ぶことを止めなかったのです。日本人はお金を使うことに慎重だと本で読みました。でも、お母さんの気前の良さは私たちの考えを変えました。

青森県南部町にてホストマザー(お母さん)と(左から2番目)
ホームステイ中テーブルの隅々にまで並べられた料理

滞在した3日の間に、お母さんが私たちのためにどれだけ準備してくれていたのかを知り、感動しました。私たちが犬を怖がったり、不快に思ったりするかもしれないと考え、飼い犬を、この3日間は外においてくれました。朝、入浴する私たちのために熱いお湯も準備してくれました。自分の果樹園から新鮮なふじリンゴとリンゴジュースをふんだんに用意してくれました。ある夜には地元の温泉に連れて行ってくれて、私たちは月明かりの下で熱い温泉に浸かるというまたとない経験もできました。日本の田舎の、美しい景色を堪能しました。どれもまったく初めての体験でした。

お父さんは、楽しい人でした。家族の歴史と先祖の話をしてくれました。家紋も見せてくれました。今までは、徳川家の家紋など、いくつかの家紋しか本で見たことがなかったのでとても興味深かったです。お父さんは、日本とバングラデシュの良好な関係が続くことが大事と言っていました。

息子さんとは夜遅くまで食堂で話をしました。彼は美容師でもあり、いろいろなビジネスもしていました。バングラデシュでの日本車産業や私たちの生活や困難な点について、何時間も話しました。私は少し日本語がわかりましたが、他の2人はわかりませんでした。でも、グーグル翻訳機はとても便利で、言葉の壁を取り払い、日々のコミュニケーションでも大変役に立ちました。

ある夜は、上の息子さんが、盛大なバーベキューパーティーを準備してくれました。料理はとてもおいしかったですが、一番印象的な経験は、その料理を作る、チームワークです。2人の息子さんたちと私たち3人が協力してバーベキューをしました。まったくの他人であった私たちが、このような短時間のうちに、これほど打ち解けて、すごいチームワークで料理を作るなんて、だれにも予想できなかったことです。素晴らしい体験でした。

日本が電化製品で有名なのは知っていましたので、私たちが電化製品を買いに行きたいと言うと、お母さんは地元のスーパーマーケットに連れて行ってくれました。でも、バングラデシュで売られている製品に比べて値段がとても高いということは知りませんでした。高品質のものは高価格であるということです。それでも、友人は電気シェーバーをかごに入れました。ところが、私たちが気づく前に、お母さんがその支払いを済ませてしまっていました。なんて気前がいいのでしょう。さらに日本の大きなショッピングモールも見ることができました。

ホームステイ最後の日に、お母さんが、さくらんぼ市場という、地元の市場に連れて行ってくれました。 お年寄りの方たちの指示で、食べ物やフルーツを並べるためのテントを設営しました。地元の人たちとの共同作業や交流はとても楽しかったです。日本で地域住民の集まりを見ることができました。

改善点を述べるとすれば、地方でのガイド付きツアーを希望します。南部町の経済活動はよくわかりましたが、この地方独特の地理情報はあまり得られませんでした。 ホームステイ中はWi-Fiルーターも供給されなかったので、場所が把握できませんでした。インターネットに接続できる一時的な携帯電話をもらえれば、ホームステイした場所についてもっと学習することができて、そこでの経験ももっと意味のあるものになったと思います。

結論として、JENESYSのホームステイはよく計画されよく運営されたプログラムと言えます。若い参加者たちの心に深い印象を与え、未知の環境下で新しい友人を作る機会を与えてくれます。

―プログラムに参加して、日本のどのような点が魅力的だと感じましたか?日本について何が新しい発見がありましたか?

プログラムに参加している中で気がついた日本の魅力はたくさんあります。これまで日本の経済発展に関する本を2、3冊読んではいました。でも、日本の地方に行ってみなければ、経済発展がそこまで進んでいることはわからなかったと思います。

まず、都会と比べて、地方でも経済がバランスよく発展していることに驚きました。南部町の農家世帯は、都会の家庭と変わらない家電製品をそろえており、トイレの設備でさえ都市のホテルと同じでした。農家は何台も車を所有しており、高速インターネット完備で通信環境も良く、公共交通機関もあります。

次に、良く計画され、良く運営されている都市計画と建築に感服しました。道路にターミナル、建物と景観、すべてがお互いに呼応していて、しかも使いやすいのです。建物の建築と空間計画は、日本の伝統を守りつつ最新技術も取り入れて、しかも完璧な調和を見せているのです。例を挙げれば、宿泊したホテルは、自動ウォッシュレットトイレが完備された、畳敷きの部屋でした。その伝統的な床は、奇妙には見えず、しかも、宿泊者に畳の経験と心地よさを与えるような素材でできているのです。

3番目に、日本の人たちの謙虚さとマナーがあります。インフラがどんなに整備されていたとしても、人々が差別的な態度をとるのなら、私たちの経験も違ったものになったでしょう。地方でも都市でも、日本の人たちが勤勉で、落ち着いていて、自制心を持っていることに感銘を受けました。たいへん親切で、協力的で、外国人に対して寛容です。

以上のことは、日本に行くまで知らなかったことであり、他にもまだまだ挙げることができます。初めて知ったことで特に一つ例をあげるとすれば、日本の人たちが騒音削減のために努力しているということです。日本の都市のマーケットのほうが、私が暮らすダッカの家の路地よりも静かだと言えるでしょう。 

―JICEスタッフやコーディネーターのサポートはどうでしたか?スタッフ・コーディネーターのサポートで良かったことがあれば具体的に教えてください。また改善点があれば教えてください。

プログラム期間中にJICEスタッフとコーディネーターたちからいただいた支援は、大変プロフェッショナルで協力的であったといえます。役に立つ情報や指示をくれました。特に2人のコーディネーター、佐藤順子さんと菊池千保里さんは誠心誠意尽くしてくれました。とても忍耐強く、才能があって、コミュニケーションの取り方もすばらしく、特筆したいです。良かった点は以下の通りです。

寛容:私たちは、外国人として、日本のルールや習慣に不慣れです。コーディネーターがその都度教えてはくれますが、失敗することもあります。理由は、ただ単に自国での習慣、注意力散漫、躊躇、日本のエチケットの知識の欠如、めったにないですが傲慢さ、などがあります。でも、コーディネーターは私たちをよく理解してくれて、いつも何かしらの解決法を見つけてくれました。

よいコミュニケーション:コーディネーターは英語が上手なので、問題があればそれを簡単に伝えることができました。

勤勉さ:自国でコーディネーターとして働いていましたので、若い外国人の集団に同行することがどんなに多忙なことか知っています。その経験と比較して、JICEのコーディネーターたちはとても勤勉でプロフェッショナルであったといえます。夜も遅くまで働いて、参加者たちがちゃんと部屋で寝ているかの確認もしていました。

他の文化に心を開く:イスラム教徒として、私たちとモルディブの参加者たちは食べ物と礼拝に関して規制があります。コーディネーターたちはそのことにたいへん理解があり、よく支援してくれました。

健康問題と衛生管理:コーディネーターたちは毎日参加者の体温を測り、必要な場合にはマスクを配布しました。食事の前には参加者たちの手を消毒していました。今、COVID-19の世界的感染拡大となっていますが、このような取り組みが、プログラムを安全に実施し、参加者を安全に帰国させるためにどんなに大事かがよくわかりました。

バングラデシュからの参加者と南部町副町長と共に(下段一番左)
ホームステイ中JICEスタッフとコーディネーターと共に

―プログラム参加後のキャリアについて教えてください。JENESYS2017への参加が進路の決定に影響を及ぼしましたか?

JENESYSに参加した時は建築コンサルティング会社で働いていました。プログラム参加後、建築関係の職場で、日本語能力が生かせるところを探し始めました。そのため、日本語能力試験のN5級を受験し、75.5%の合格ラインで合格しました。2018年7月のことです。その後ダッカ大学の日本語学科を通じて、日本の文部科学省の2020年度の奨学金に申請を出しました。私の研究提案は、“首都圏における、清潔で健康的な環境確立のための、都市住民の確固たるごみ廃棄慣習に対する理解:ダッカと東京の道路における文脈的比較”というもので、日本語学科の候補者の中で上位5人には残ったのですが残念なことに推薦を得られたのは2人だけでした。

そのあと、家族を養うために、建築家としてのキャリアに注力しました。2019年8月に、バングラデシュ建築家協会(IAB)に本会員として登録することができました。バングラデシュで登録済のプロの建築家として活動するお墨付きを得たわけです。2019年9月に、アシスタント建築家として、JICAが支援する、都市建築安全プロジェクト、公共事業局事業実施ユニットで働く機会をいただきました。日本の建築家やプロの人たちと働くという夢がかなったのです。

このように、JENESYSに参加したことは、私のキャリアにはたいへん大きな影響を与えたといえます。

―今でもプログラム中に交流した日本人やホストファミリーと連絡をとっていますか? 何かエピソードがあれば教えてください。

はい、プログラム中に交流した日本人やホストファミリーとは今でも連絡を取っています。お母さんと二人の息子さんは私のフェイスブックの友人です。お母さんとは何回かやり取りをして、バングラデシュに来てくださいと伝えました。

私はお母さんの投稿に「いいね」や「シェア」しますし、お母さんも私の投稿を見てくれています。日本のショッピングモールで会った人とも時々やり取りしています。

―プログラム参加後に日本について情報を発信していれば教えてください。

はい。“ジャパン・ジャーナル”という名前のフェイスブックページを作りました。このフェイスブックページに、JENESYSの時に撮った写真を短い説明とともに投稿しました。その時の参加者にも声をかけてこのページに投稿してと呼びかけています。写真の多くは、JENESYSに関連した、私のFacebook、Instagram、Twitter、WhatsAPPアカウントでもアップロードしています。

JENESYSの申し込み手順や詳細を、若い人たちに紹介し、薦め、相談にも乗っています。日本語も習うように薦めています。そうすれば私も日本語会話を練習する相手ができます。

在バングラデシュ日本国大使館の主催するプログラムにも友人とともに参加しています。例えば、2018年のジャパンフェスト、2019年のジャパン・フィルム・フェスティバル、などです。日本大使館の図書館の会員でもあります。残念なことに、2020年のジャパンフェストは2月8日に開催される予定でしたが、COVID-19の感染拡大のために中止になりました。在バングラデシュ日本国大使館のフェイスブックは定期的に見ています。

“ジャパン・ジャーナル”で掲載している写真

―日本と自国の架け橋となるために、将来どのような計画を考えていますか?

日本とバングラデシュの架け橋となるために、独自のシンプルな計画があります。次の3つの計画です。

まず、私はたいへんな親日家です。ですので、何か興味深い日本に関する記事を見つけたときはフェイスブックに投稿します。そうすれば、バングラデシュの友人や家族は日本についてもっと知ることになり、理解が深まります。その記事が気に入れば、拡散してくれるでしょう。情報が波のように広がるわけです。

次に、友人知人のサークルの中で日本語を広めます。フルタイムで建築家として働いているので、プロとして日本語を教える時間はありませんが、日本語を習いたいという人がいれば、役に立つ電子書籍や文書をメールや写真などで共有し、母国語で説明してあげます。

3番目に、将来、日本で高等教育を受けたいと思っています。できれば、日本で、建築関係の博士号を取得したいのです。建築の学士過程で5年間学び、日本語修士課程で2年間学びました。いつか日本の大学院で博士号を取得したいです。私が日本で学び働けば、バングラデシュの友人たちは、私が発信する日本に関するより確かな情報を受け取ることができるでしょう。それによって、友人たちは、平和で先進的な現代日本に啓蒙されることでしょう。

私の計画を実現するために努力することで、日本とバングラデシュの架け橋としての大きな役割を果たすことができればと思っています。

バングラデシュ参加者たちと都内にて(左から4番目)
日本学科の修了式 2019年ダッカ大学にて 

―これからJICE国際交流プログラムに参加する人や、日本での留学/就職を希望する人たちへアドバイスをお願いします。

将来のJICEが運営する交流プログラム参加者へ贈るアドバイスは以下の通りです。 

1. 日本と日本文化のことを、本物の情報から、できるだけたくさん勉強してください。そうすれば、ただの観光旅行よりもより豊かな経験ができます。
2. 日本人の人生観を勉強してください。「Japanese Mind」(ロジャー・J・デイビス、池野 修 著)という本がとても役に立ちます。
3. 家族や友人が日本からのお土産をとても期待すると思います。でもその期待は大きくさせないようにしてください。日本では、買い物の時間はそんなにありません。それに、物価が高いです。高品質のものは高価格と思っていてください。
4. プログラム中は、時間通りに起きるようにしてください。日本人は時間にとても正確です。時間に遅れると、国の代表として、恥ずかしい思いをします。
5. 場所を移動するときには、空のペットボトル等を残していかないようにしてください。自分のごみは正しい方法で正しい場所に捨ててください。
6. SAARC諸国の人は、大声で話す習慣があります。公共の場で離れた人と大声で話すのは無秩序に見えます。話すときは声を小さくするように気をつけてください。
7. ホストファミリーの信念や常識には柔軟に、敬意をもって対応してください。日本人のありのままの家庭を経験するためにホームステイをするのです。訴えたり判定したり批判するためではないのです。多様性には美点があります。受け止めてください。
8. 日本の食事は私たちの食事と大きく違います。日本食は新鮮で、生で食べることもありますし、スパイスをあまり使いません。でもとても健康に良いのです。広い心で、新しい経験を味わってください。
9. ホストファミリーに協力してください。自分の持ち物は整理してきれいにしていてください。伝統的な日本家屋では、ドアや障子や窓などをそっと扱ってください。これらはたいてい木と紙でできているので、乱暴に扱うと壊れることがあります。

日本に留学や就職する方へのアドバイスはあまりありません。まだ、私自身はその経験ができていないからです。でも、日本語が話せることは確かに利点となるでしょう。

JICAが支援する都市建築安全プロジェクト公共事業局事業実施ユニットのオフィスにて

問い合わせ先

JICE 国際交流部 青少年交流課

03-6838-2730